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2024.07.24
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団体メンバーインタビュー企画。#03 弁護士 津久井進先生に聞いてみた。

第3回は、どうぶつ弁護団の監事を務める津久井先生に聞いてみた

―― 津久井先生といえば、阪神・淡路大震災を機に法律面から被災地・被災者支援に取り組まれながらも、様々な分野で、日々最大出力で動かれている先生ですが、動物の問題に取り組もうと思われたきっかけを教えてください。

津久井: 私が災害のことをやっているというのはその通りなんですけれども、それをやりたい!というのではなくて、自然とそうなっているんです。

私が弁護士になったのが、阪神・淡路大震災が起きた直後でした。当時は弁護士全員が災害支援活動に取り組んでおられた。

1年生だった私は当たり前のように取り組み、1年経ち、2年経ち、5年経ち、10年経って、パッと振り向いたら、みんな通常業務に戻っておられて(笑)。

動物の問題に対してもですが、そこに問題があり続ける限りは、モチベーションがあろうがなかろうが、やらんといかんもんはやらんといかんので、そういうノリで災害の問題も取り組み続けています。

―― 確かに、モチベーションがどうとかでなく、そこに問題があり続ける限り向き合い続けてこられているのですね。

津久井: 動物との関わりについては、震災に加えてJR脱線事故の話があるんです。

私、1995年の震災の時には埼玉県にいて、神戸の人間なのに揺れを感じてないということに罪悪感を感じていて、それも支援活動を今もやり続けてる1つの動機なんですね。

震災からちょうど10年経った2005年に、私が住む尼崎でJR脱線事故が起きました。で、今度はちゃんと取り組まなきゃ、って思い立って、事故の初日からアクセル踏みまくって、今も支援活動をしているのですが、その中でご縁がたくさん生まれたんです。

伊丹の日本レスキュー協会の方々とのセラピードッグ活動に関わったり、知り合った被害者の方が、事故による障害を抱えながらも専門学校に通ってトリマーになられたり。また、ある被害者さんは、保護犬の終末期のセラピーを長年なさっていて、公益社団法人Knotsという団体の理事もされていて、私もそのお手伝いをさせていただくようになりました。そのご縁で、動物の写真家の方とも知り合ったりとか、動物を中心とした繋がりが広がっていました。

復興まちづくりと動物の問題、大事な3つのポイントとは・・・

津久井: 災害復興のまちづくりと、動物支援の問題がとても似ているところがありまして。私にとっての復興まちづくりの大事なポイントを3つ挙げると、

1.被災者の目線に立つ。

2.自分たちだけじゃできないことを自覚して、しっかり連携する。

3.制度がなければ、新しく切り開いて作っていく。

こうした姿勢が動物の問題にそっくりで。

動物の目線に立ったら、当然なんとかせな!って話になりますし、もちろん弁護士だけの力ではできない。獣医師さんとか、ペット業界や動物愛護団体の方々とかいろんな人たちとの連携がないと乗り越えられません。そして何より、この問題を解決するために、制度がなかったら切り開いていくって、まさにどうぶつ弁護団が今やっていることですよね。

―― 確かに、問題解決の仕組みを紐解いた3つの大事なポイントですね。そして津久井先生のお人柄もまた、人と人をどんどん繋いでいって止まらないという、もう一つの必要不可欠な要素だったのではと感じました。

どうぶつ弁護団結成秘話!

―― さて、このどうぶつ弁護団ですが、結成のきっかけとなった場を仕切っていらっしゃったのが津久井先生だとお聞きしましたが・・・

津久井: 私は、2021年度の兵庫県弁護士会の会長を勤めていたんですね。で、その年度にこの一連の活動のきっかけになるシンポジウムをやりました。

シンポは、「人と動物の共生社会を目指して」っていうタイトルだったんですけれども、この中でどうぶつ弁護団を作ることが決まり、私は弁護士会の責任者ということで関わらせていただいた光栄な立場にあるんですけれども・・・それは表面上のお話でして(笑)

実はこれは、理事長の細川敦史先生の策略通りなのではないかと思っておりまして・・・。

細川先生は私の前々年度、2019年度の弁護士会の副会長をされておられまして、私たちの役員室にもちょいちょい顔を見せてくださっていたんです。

役員室には本棚があって、そこに「しっぽの声(夏 緑 (原著), ちくやま きよし (イラスト), 杉本 彩 (監修))」が並んでたんですね。

僕もビッグコミックオリジナルで連載が始まった時から好きな漫画だったんですけれども、コミックがあったので、改めていちから読んでみたんです・・・、そもそも、まずこの漫画を置いていったのが細川先生だったんですよね。

それからです。細川先生が、「杉本彩さんって同年代のアイドルがいるでしょ、一度対談とかされませんか?」って言うので、いやもちろん喜んでやりますよ!って釣られて(笑)。

それから、なんですかね、細川先生がちょいちょいと役員室に入ってこられる度に、「津久井先生も災害支援の中で、動物問題に関わることもありますよねー」とか世間話を振ってくるので、サブリミナル効果みたいな囁きが続いて・・・気がついたらこのシンポジウムをやるということが決まって、私もそのパネラーの1人ということになっていて(笑) 神戸市獣医師会の会長の中島先生とEva理事長の杉本彩さんと私との3人が細川先生のコーディネートのもとで、語り合うセッティングがなされていました。

―― 細川先生の台本通りみたいに進んでますね(笑)

津久井: ですよ。もう、この業界の第一人者の中島先生ですが、先生は阪神・淡路大震災で、被災した地区のまちづくり協議会の会長さんを務めていたこともあって、震災支援つながりで、旧来の知り合いでした。まち協の会長さんが、まさか獣医師会の重鎮だったとは知らず…。

そして、動物虐待問題の第一人者である、杉本彩さん。それを細川先生が仕切ってる中に、ぽいっと掘り込まれた私は、いたいけな子羊だったんですけれど。

パネルディスカッション中に、コーディネーターである細川先生から「弁護士会としてもこの動物虐待問題にしっかり取り組むんですよね」って振られまして、そう来たら「はい、もちろんです!」って言うしかないわけで(笑)。

でももちろん、私はその時に心の底からというか真意で、この問題はやっぱり大事だなと、取り組まなきゃいけない新しい課題だと思ったから、「もちろんやります!」とはっきり言ったんですけれども、後で考えると、あれは会長から言質を取ろうとしていたのかと、、、そうだとしたらたいへん良い罠だったとは思っていますけど(笑)

―― それが本当だとしたら細川先生の綿密な長期計画の遂行と、それに深い演技力で乗っかり続けた津久井先生のおかげで今があるのですね。なんだか本当に有難うございます(笑)

ペットの同伴避難が当たり前に受け入れられる理由とは・・・

―― では、先生が一番力を入れておられる活動、被災地・被災者支援の中での「どうぶつ」たちの問題を具体的に教えてください。

津久井:直近ですと、令和6年1月1日の能登半島地震ですけれども、私もこれまで7回程被災地に出向きまして、避難所などをいろいろ回ってきました。ある避難所では、動物を避難させる時には周囲に迷惑を掛けないようきちんと相談をしてくださいと張り紙がしてあって、ペットと避難所で共生することの難しさを感じる場面もありました。

そんな中、志賀町の防災センターの避難所では、 ある被災者さんが、アイリちゃんという13歳の愛犬と2人と言いますか、1匹と1人で避難所で生活してまして。

で、その避難場所がですね、避難所の入口の1番手前のところ、つまり避難者全員が通る入り口のところにアイリちゃんがいるんですよね。で、 聞きますと、発災の1月1日の避難所開設の時からそこにアイリちゃんが居たということでした。

ここに避難している40人ぐらいの方々はもとより全員顔見知り。要は、避難する前から、発災の前から、とても人懐っこい犬のアイリちゃんは、皆さんから可愛がられていた、だから、本当は犬嫌いの人もいるのかもしれないけれども、そこに彼女がいることを違和感なくみんなが受け入れていたということなんですよね。共生ですよ。

難しいルールだとか、避難所のあり方だとかっていう以前に、これが共生社会やなっていうようなことを見て感じました。

―― 今言われるペットの同伴避難についてですね。確かに、大前提で人と人がちゃんと共生できている地域では大きな問題とならないことが実はたくさんあるのかもしれないですね。

「地域での共生って意味でいうと、明らかに劣化してると思う」

津久井: 震災対応について過去から30年の変化をみたときに、そこに劣化と進化の両方があるんです。例えばボランティアについていえば、ボランティアのルールとかノウハウとかはかなり向上したんだと思いますよ。 あと行儀の良さとかね。

でも一方で、ボランティアの自立性、自発性、自由な発想っていうものは、阪神淡路の頃からどんどん下がっていると思う。ボランティアの本質をあらわす名言に「いわれなくてもする、いわれてもしない」というのがあるんですが、今だと違和感を覚える人もいるんじゃないですか。能登半島地震から半年も経っても、ろくにボランティアがいないという惨状は、もう劣化の最たるものやなと思うんです。

動物も一緒で、地域共生という概念だとか、 それから動物愛護法の虐待の厳罰化だとか、ルールは昔より向上したと思うんですよね。学ぶ場だとかリテラシーの質だとか、いろんなものが上がっています。

でも、肝心の現場であるところの日常生活を見てみると、例えば犬を家の中で飼うことが増えたのは、近所に迷惑かけるからとか、外に出すと他人と色々あるからっていうことで、 なんか中に入れてるっていうのもあったりして。いろんな面で窮屈になった。ペットショップの展示販売とか、猟奇的な虐待とか。

確かに地域での共生って意味で言うと、明らかに劣化してると思う

―― 昔と今を比べて見えてくる劣化と進化。劣化した中に忘れてはいけなかった大事なものがあったのですよね。

「私はその災害の現場と、このどうぶつ弁護団の問題意識を繋ぐ役目ができたらなと考えています」

津久井: で、日弁連に災害復興支援委員会というものがあり、私もその一員なのですが、2010年つまり東日本大震災の前の年に 宮崎県で発生した口蹄疫の問題がありましたね。

宮崎県の高級牛が口蹄疫になってしまったということで、ワクチンを打って感染症の蔓延は食い止めたんだけれども、ワクチンを打って口蹄疫にかからなくなった牛たちを、全頭殺処分してしまったんですよね。

それはなぜかというと、宮崎の肉牛はブランド牛なんで、ワクチンを接種してしまうと肉質が落ちる、宮崎牛のブランド力が下落するということで、接種後の牛は順次殺していくと。

殺処分するのはもちろん獣医さんたちですが、殺された牛たちを掘って埋める役目は行政の一般職員の方々。彼らもかなりのトラウマを抱えたというお話も聞きました。また、生活の補助家畜っていうのでしょうか、家族同然の存在だった牛とか、羊とかヤギとかも同じように殺処分されたということなんですけれども、そういう仕組みってどうなんだろうかっていうことが当時の課題でした。

翌年には東日本大震災が起こって、福島県を中心に無残に放置されて、飢え死にしていった家畜がたくさん出たというのを見て、やっぱり何かしら制度上の欠陥があるんじゃないのかなって、、、普通は思いますよね。

それらの答えはまだ出てないんですけれども、少なくとも、この動物虐待問題が広く社会の共通認識になってきたと思います。災害時の対応というのも同じで、自ずと変わってくるのではないかと。

そういうことで、私はその災害の現場とこのどうぶつ弁護団の問題意識を繋ぐ役目ができたらなと考えています

―― 動物の問題を見たときに、とても広い範囲で根深く存在しているのが畜産業界のどうぶつたちのことですね。同じことが繰り返され、これはおかしいという意見が出ることが、制度を変えるきっかけになるべきということですよね。

「一人一人のニーズに沿った支援をするために」

―― では、宜しければ津久井先生がこれから取り組んでいきたいとお考えのことがあれば教えてください。

津久井: 私は今、「災害ケースマネージメント」という取り組みに力を入れているのですが、一人ひとりの被災者さんに寄り添って、その人のニーズに沿って寄ってたかって支援をしていきましょうということですね。

例えば、支援法で300万円の支援金を出しました、はい終わり、あとは勝手にせい、じゃなくて、ちゃんと継続的に寄り添って対応していきましょう、と。

例えば鳥取県での具体例なんですけど、70代男性で、災害前から自宅がゴミ屋敷となっていて猫の多頭飼育も問題視され、近隣から孤立していたケースで、地震の影響で雨漏りが続いて屋内電気がショートしてるのに放置されて、様々な課題が生じていたんです。

で、そこに震災復興活動センターの方々や建築士や専門ボランティアや社協の方々が入って様々な面からフォローした。

そして、猫の多頭飼育に関しては、動物保護に取り組むボランティア団体が協力して不妊手術を施し、地元社協が見守りをしながら地域との再結合をやっているという話なんです。これがニーズに沿った支援です。

―― 一人ではできないことを各所の連携で見事なサポートをされているケースですね。自然に、人と人、動物と人、それぞれが助け合えるようなネットワークが機能する制度をこれからに向けても考える必要がありますね。

津久井: そう、人と人の繋ぎ手という考え方についていえば、イギリスにはリンクワーカーっていう職種があって、例えば病院から退院するときに、 地域の方々や社会資源とリンクさせるケースワーカーなんですけど、こういう専門職もこれから必要ですよね。

私たちどうぶつ弁護団も、求められたことだけをやるっていうんではなくて、こちらからアウトリーチして、いろんなところに「いつでも繋がるからね」っていうメッセージをしておく活動もとても大事でしょう。

―― どうぶつ弁護団の活動を支えてくださっている賛助会員の皆様、応援くださる皆様へ一言お願いします。

津久井: 災害の支援をやってる私たちからすると、災害支援ってお金が儲からないのによくやりますねって言われるんですけれども、どうぶつ弁護団も同じですね。しかし、ボランティアにしても、災害復興の色々な取り組みにしても、市民の方々が寄付をしてくださったりして、それがぐるっと回って私たちの活動の原資になってるわけですよね。 だから、やっぱり寄付文化に支えられて今があるということはもう間違いないです。

何かやろうとしたときに、知恵とか情報・人・そしてお金、 この 3つがあって初めて活動が成り立つので、どうぶつ弁護団は人と知恵・情報というものについてはもうフル活動で頑張るので、もう1つ足らないお金のところをなんとか、思いを同じくする人たちにご協力いただけたらなって思います。

―― そうですね、賛助会員の皆様と我々が繋がってこそ、一つの活動が動き始めていると実感します。災害支援と動物支援。様々な問題に賢く優しく対応できるように準備していかなければですね。今日は有難うございました!

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